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広田修の書評とエッセイ

燃え殻『これはいつかのあなたとわたし』(新潮社)

 成熟した大人のエッセイ。人生経験をたくさん積み、たくさんの傷を負い、酸いも甘いも味わい尽くした著者による人間を俯瞰したエッセイ集だ。燃え殻は統合力、総合力において優れていて、自分の人生を高い地点から総合したうえで、読者にとって心に刺さるであろうエピソードをその抜群のセンスで選んできて抜群のセンスで語る。人間が成熟することで得られるセンスを最大限に活かしている。

 燃え殻の著作はずっと追ってきた。どれを読んでも、実社会で生きる生身の人間の悲喜劇が絶妙な手つきで語られている。人間の弱さを決して隠さず、柳のようにしなやかに生きていく、運命は避けられないものとして受け入れる、何もかもわかっていても口にしない、そういう成熟した大人による極上の味わいのエッセイ集だ。