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広田修の書評とエッセイ

ミラン・クンデラ『冗談』(岩波文庫)

 本作は、ミラン・クンデラのデビュー作である。この小説を読んで感じたのは、徹底的に俗事を書いていることの潔さである。小説に詩的要素が含まれている時に感じるのは、小説がどこか俗事を超越した次元まで描いていることだが、この小説にはそうした聖なるものや美なるものに接近しようとする意図を感じない。徹底的に俗であることにより生じる純粋な娯楽を追求しているかのようだ。

 小説における美の問題や聖と俗の問題は難しい。小説が近代的な美を追求していなくても、また小説が聖なるものと近接していなくても、それは十分小説として成り立つ。つまり、美や聖は小説の必要条件ではない。だが、小説は美や聖を取り込むことでその豊かさを獲得してきた。徹底的に俗に徹することにより生まれるものはいったい何と名指したらよいのか、それが難しい問題だ。