albatros blog

広田修の書評とエッセイ

草野理恵子『手の紐』(しろねこ社)

 草野理恵子の本作においては、人間の身体が様々に変形などする。草野の詩は何らかの寓意を担っていると思われるが、それはなんだろうか。

 一つ思ったのは、身体の変形は本来なら強い痛みを伴うはずのもので、読んでいてもうっすらと仮想的な痛みのようなものを感じてしまうことが、人生における痛みを伴う体験の比喩になっているのかなということ。例えば挫折や失恋など、人生には大きな痛みを伴う経験がある。そういうことを寓意しているのかもしれない。

 もう一つ思ったのは、本来思うとおりになるはずの身体が、思うように動かず勝手な動きをするということが、人生における、自らが支配していると思っていたものの裏切りの比喩になっているのかなということ。例えば恋人や子どもなど、人生には親密な他者による裏切りがある。そういうことを寓意しているのかもしれない。

 いずれにせよ、完成度の高い詩編が並び読んでいて満足感が高かった。