albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ハン・ガン『別れを告げない』(白水社)

 ハン・ガンの小説は痛みに満ちている。それは個人の感受性の痛みであったり、個人の肉体の痛みであったり、社会の痛みであったり、世界の痛みであったりする。そのように次元の異なる痛みが互いに構造を作っているさまを如実に物語っている。描写が痛みに満ちているし、友人は指を切断してしまったり、壮絶な介護をしたりしているし、主人公は社会的な痛ましい事件を題材にしようとしているし、友人の母親も過去に拷問を受けた。

 世界の悲劇の構造について書いている本なのだなと思った。悲劇は世界・社会・個人・個人の感受性の次元で起こり、それらは複雑に絡まり合っている。そのような世界の悲劇の構造を描くことで、世界の根源的な悲劇性のようなものに迫っていると思う。世界とはそもそも悲劇なのである。