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広田修の書評とエッセイ

アニー・エルノー『場所』(早川書房)

 アニー・エルノーは、この小説で自らの父親の輪郭を上手に描き出している。学問を嫌い、世間体を気にし、他人から見られても恥のないように気を配っていた父親の姿を、まことに輪郭をくっきり際立たせて描いている。小説において、登場人物の輪郭を描くことすら困難だと思う。たいていの作家は輪郭を描き終えることができない。だが、アニーは輪郭を描くことにおいてまことに卓越した手腕を発揮している。

 アニー・エルノーの作品には実存の香りがする。虚構というよりは、ノンフィクションにも近く、純粋な小説を好む読者からすると少し実存に寄りすぎていると思われるかもしれない。だが、そこにしっかりと領野を切り開いているのがアニーの世界なのであって、実存寄りでありながら小説としてきちんと成立させるところにアニーの世界の妙味がある。