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広田修の書評とエッセイ

アニー・エルノー『シンプルな情熱』(早川書房)

 本書は、アニー・エルノーが自らの恋愛について事細やかに描いた作品である。アニーの作品には誠実さと明晰さが見て取られる。誠実さによって相手と真摯に向き合い、相手との距離を縮め、明晰さによって相手の細部を明らかにし、相手を拡大する。相手に近づくと同時に拡大することで、恋愛心理がまことに事細やかに表現される。

 アニー・エルノーは技法の作家というよりは態度の作家だと思う。作家としての態度がすぐれていることによりすぐれた文学作品を生み出すタイプの作家だ。アニーは、恋愛というもの、そして恋愛の相手方と、誠実かつ明晰に向き合う。その態度が簡潔な文体でありながら豊かな内容を生んでいる。非常に優れた作家だと思う。