albatros blog

広田修の書評とエッセイ

トーン・テレヘン『おじいさんに聞いた話』(新潮社)

 人間というものは、体験を経て年を経るごとに、どんどん掌編小説集として充実していくものだと思った。人間は出来事を物語のスキームで認識するから、自分の経験も基本的に物語として記憶する。老年にもなればたくさんの物語を蓄積して、ひとつのおおきな掌編小説集になる。人間はテクストとしてはそのような存在形態をとるだろう。

 だが、この作品は、祖父から孫への語りという形をとっている。祖父はテクストとしては掌編小説集だが、この愛すべき孫への語りという幸福な行為を行うことで、幸福な行為を行っている。それは相互的な行為であり、孫もまた祖父の声や語り口などから親密な感覚や雰囲気などを感じ取り、質問などで応答する。掌編小説集による幸福な行為の物語なのである。