本作は、運動用プールにおける情景や、認知症になった母親の在り方について、非常に繊細かつ詳細に描写している美しい本である。具体性が際立っており、羅列されていく詳細かつ具体的な事物の数々は、きらめくような愉しみを生み出してくれる。細部を徹底的に描くことで、世界の繊細さ、詳細さを言語として表出し、そこに表れる世界の相貌がとても美しく際立っている。
運動用プールについて、社会学的に描かなくとも文学としてここまで描ける。認知症について医学的に描かなくとも文学としてここまで描ける。文学としてできることをやり尽くすというところに、文学の挑戦が見て取れる。ここには、文学にしか見えない景色があり、文学にしか見えない世界がある。素晴らしい作品だった。
