albatros blog

広田修の書評とエッセイ

呉明益『眠りの航路』(白水社)

 本作は、人間に根源的にひそめられた暴力について書いているように思える。睡眠のリズムが狂い、睡眠時の行動障害が現れるようになった主人公と、主人公の父、主人公が見る不条理な夢、それぞれの物語が飛躍し、入れ替わりながら綴られていくが、主人公の父が経験した戦争とはまさに人間の根源的な暴力だったのではないか。そして、それは、眠っている間に暴力をふるってけがをしてしまった主人公の根源的暴力とリンクしてくる。

 睡眠のリズムが狂っていくという設定がとても面白く、それに対する医学的な説明なども面白かった。それよりも、三つの筋書きが飛躍しながら緩やかに連関していく語りの巧みさに魅了された。台湾文学には優れた書き手がほかにもいそうであり、これからほかの作家もどんどん読んでいきたい。そういえばノーベル文学賞も台湾のハン・ガンが受賞したのだった。