albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ヨン・フォッセ『三部作』(白水社)

 ヨン・フォッセの作品には崇高を感じる。その文体的緊密さと張りつめた緊張、矛盾や不条理が、我々の想像力を超えた力を持っていて、そのスケールの大きさが崇高の感情を生むのである。初めに登場するカップルは、なぜか泊まる場所を見つけられない。そこに異様な緊張が湛えられる。そして次の章に移ると、カップルが名を変えて逃亡している場面に移る。筋の展開にも矛盾に似たものを感じる。こういった矛盾や不条理が崇高を生んでいる。

 崇高を感じさせる小説作品はそれなりにあるが、ヨン・フォッセに至っては極めて崇高であるという点で他の作家より群を抜いている。この崇高に打たれるために、人はヨン・フォッセを読むのかもしれない。崇高を生み出す技術において類まれなるものを持った作家である。芸術における崇高は自然の崇高よりもずっと価値がある。なぜならそれはたかが人間が作ったものだからだ。