今年読んだ本の中からよかったものを紹介します。
1.渡邉雅子『論理的思考とは何か』(岩波新書)
我々がロジックと呼ぶものは、単一ではなく複数あり、状況に応じて異なるロジックを使い分ける必要があるとする本。論理の複数性、相対性を説得的に論じるまさに目からウロコの名著。
2.上田岳弘『最愛の』(集英社)
既存のメロドラマという枠組みを活用しながら上田岳弘の可能性を最大限に模索している。今後も既存の枠組みを利用しつつ実験を続けるのだろうか。
宗教・政治・経済・法律の混ざっていない純粋倫理の探求。このような原理的探究がなされるのは好ましいことだ。重厚で読みごたえがあって良かった。
すべての哲学を相対化するメタ哲学としての世界哲学。地域的な偏りを排して真の哲学の在り方を探る重厚な本である。とてもおすすめである。
5.甘耀明『真の人間になる』(白水社)
台湾の土着性と歴史性を感じさせるスケールの大きな小説。描写の密度や物語の緻密さにおいて、小説作品としての強度が極めて高い。読んでよかったと思わせる小説である。
6.将基面貴巳『反逆罪』(岩波新書)
近代国家成立を陰で支えた反逆罪の存在。その歴史を、二つの類型を軸にしてダイナミックに考察していく。とてもスリリングで面白い。おすすめである。
7.アシル・ムベンベ『黒人理性批判』(講談社選書メチエ)
世界が黒人化しているとする警世の書。資本主義に収奪され続けた黒人であるが、資本主義に収奪されているのは世界全体であるとする。密度のある議論がとても面白い。
重要な思想的功績を残しながら、決して鎮座することなく、常に政治的状況に身を置きながら行動していったシモーヌ・ヴェイユ評伝の決定版。とても勉強になる。
9.千葉雅也『センスの哲学』(文藝春秋)
芸術の基本的な存在様式をリズムであるとして展開される芸術論。入り込みやすく、考察が深く、アートについて考える上で極めて参考になると思う。
資本主義にも社会主義にも修正を提言する。新しい経済哲学の在り方を模索している本であり、極めて示唆に富む重要な著作だと思う。