albatros blog

広田修の書評とエッセイ

シルヴィー・ジェルマン『小さくも重要ないくつもの場面』(白水社)

 人生にはこんなにも詩的な場面が多数訪れるのだということを、印象的に描いた作品。ヒロインの複雑な家庭事情や波乱万丈な生涯もさることながら、作品の構成として、叙事的な普通の小説の部分の合間合間に、詩的で感受性に満ちた断片が挟まれる構成がとられているのがとても巧妙である。そう、誰の人生にも、このように光に満ち溢れ感受性が異様に研ぎ澄まされた場面が複数到来する。

 人間はみな等しく詩人である。それぞれがそれぞれの豊かな感受性を持っている。ただそれを適切に言葉で表現できるかどうかが普通の意味で言う詩人とそうでない人の違いに過ぎない。本作は誰の人生にも、感受性が研ぎ澄まされて鋭く外界を細密にとらえる場面が存在することを示し、それが作品の構成であると同時に人生の構成であることも示唆している。非常にすぐれた作品だった。