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広田修の書評とエッセイ

イーディス・ウォートン『イーサン・フロム』(白水社)

 苦難の中にあってもやはり青春は美しいのだということを書いた小説だと思う。主人公は、親の介護があったり、妻が病気にかかったりしながらも、小間使いの少女との恋愛に心をときめかせながら日々を過ごしている。その恋愛が陰鬱な生活に光明を差していて、本書は主にその恋愛のやり取りと顛末を書くことに費やされている。

 そのような青春のきらめきも悲劇とともに終わりを迎え、主人公には陰鬱な生活が残されているだけなのだが、でもやはり主人公にとって青春の恋愛は人生に射した非常に美しい光だったのだと思う。それは、自らの全人生を照らすほどに明るい光だったのだと思う。

 人間の人生にとって、青春に光が射すかどうかは、全人生にわたって影響してくる大きな問題なのだと思う。