なぜ悲しいことは同時に美しいのだろう。なぜ孤独は特権的に美しいのだろう。そのようなことを改めて考えさせられた。ヒロインは公式の出生の記録のない孤児であり、同じく孤独な盲目の灯台守に育てられる。ヒロインは灯台守が毎晩聞かせる物語によって大きな影響を受ける。その物語はその灯台をめぐるこれまた孤独な悲しい愛の物語なのだ。
本書を読んで、私は久しぶりに非常に美しい物語を読んだと感じた。我々が孤独や悲しみを歌った歌や、孤独や悲しみをつづった詩を読んだ時に感じる言いようのない感傷を、本書は小説の形で提供してくる。ある意味抒情詩のような物語であると言っていい。途中に挟まれる断片的記述などまさに詩のようである。抒情詩を小説で書くとこのようになるのかもしれない。