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広田修の書評とエッセイ

閻連科『中国のはなし』(河出書房新社)

 形式が美しい。プロットが非常に整然と出来上がっており、その見事さを味わった。息子が親父を殺したいという妄念に取りつかれ、親父は妻を殺したいという妄念に取りつかれ、妻は息子を殺したいという妄念に取りつかれる。この形式が非常に美しくまとまっている。だが、背景として描かれる世の中では、道徳の退廃のようなものが描かれている。不倫や金権主義などを批判する意図があったのかもしれない。

 それぞれの奇怪な妄念が非常に巧みに描かれており、しかもそれらの根拠の薄弱さが面白かった。大した根拠もないのに殺意が生まれるあたりが家族の怖いところだろう。家族においては強い感情が些細なことで生起して、しかもそれが循環しうるという家族特有の構造を見事にとらえている。