albatros blog

広田修の書評とエッセイ

松永K三蔵『バリ山行』(講談社)

 ロックの精神が再来したのかと思った。本作では、登山におけるバリエーションルートが主題になっている。バリエーションルートとは、正規の登山道とは異なる小道を行くものであり、登山本来の在り方ともされる一方で、その危険さゆえに敬遠されるものでもある。そのバリ山行の達人である妻鹿という登場人物がまさにロックなのである。

 圧倒的な生の実感を求めて、毎週末バリ山行におもむく妻鹿。かれは会社でも独特のアウトローぶりを発揮しており、孤立しながら自立している。会社での生き方もロックなのだ。最終的には勝手な動きをして社長と直談判をして会社を辞める妻鹿。辞め方もロックだ。最近ゆるいエモさばかりがもてはやされ、こういうとんがったロックな生きざまがあまり見られなくなった。ロックも姿を変えてリバイバルするのかもしれない。