本作は、近代詩に近い抒情詩群である。戦後になって、情緒をじかに伝えるよりは、知性を介してあるいは知性を経由して詩の面白みを生み出す作品が増えたと思うが、久谷は本作であえて近代詩的な詩法を採用している。知性や認識を刺激して詩の面白みを作り出すというよりは、ことばそのものの触覚を楽しめるような、情緒がじかに伝わってくるような作品を作り出している。
複雑な認知経路を介することで作り出す詩の面白みよりも、このように触れるようにしてわかる詩の面白みに回帰するということは、現代となっては逆に詩の可能性を新たに作り出すものと思える。歴史的にはこのような詩が先にあった。それを改めてリバイバルすることにより、詩の叙法は豊饒化し、詩の可能性は拡大する。現代においてあえて近代的抒情を歌いだす勇気に拍手したい。