吉増は、ルビやカギカッコ、音遊びなどを駆使して、多層的なテクストを作り出している。詩で書かれている内容はそれほど深いものとは思えないが、その深くない内容を文飾によってここまで深くしてしまう技量に優れているのである。日常的な内容が、ほかの表記で言い表される、ルビで注釈がつけられる、そのことによって、日常的な内容が非日常的な詩作品として異化されていくのだ。
レトリックによって詩を成立させている、あるいは詩はレトリックによって成立しているのだということを端的に示している。詩の身もふたもない実像をあらわにするという点でもこの作品は面白い。深くないことを深く書く技術が詩では要求されているのかもしれない。