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広田修の書評とエッセイ

フローベール『三つの物語』(光文社古典新訳文庫)

 素朴な人を扱った作品、波乱万丈な人生を送った聖人を扱った作品、サロメに題を取った作品が収められている。フローベールは19世紀の作家なので、現代の視点から鑑賞することには一定の限界がある。それを踏まえたうえで言うと、とにかく彼は人間を愛でていた。作中人物と世界を共有しながら、作中人物と共存しながら小説を書いていたように思われる。

 作家というと、あるときは神に比喩され、思うがままに登場人物の運命を左右する存在であるかのように思われる。だが、フローベールは、決して神の視点に立たない。神ではなく一介の同じ人間として、同じ人間を同胞として描いている。そのような同胞意識や共存意識がフローベールを偉大にしたのだ。