井川博年の詩は、「エピソード詩」とでもいうべきものであり、エピソードが生み出す微妙な印象を読者に抱かせるものである。エピソードというものは、小さな物語であり、それを結末まで読むことによって、読む者はある種の強度な微妙な感情を抱くものである。ときにはニヤッとしたり、ときには心打たれたり、とにかくエピソードの感銘力は微妙なところを突いてくる。そういったところから生じる抒情をうまく利用している。
詩は読者の感情を揺り動かせばよいわけであって、その手段は問わない。井川のように、一見平板なエピソードをつづっても、その結末に至って大きな感慨を抱かせるのもまた一つの詩の書き方である。私もこの手の詩を書くことが結構あるので、井川には親近感を持った。