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広田修の書評とエッセイ

池井昌樹『明星』(思潮社)

 詩を書くということはその人の現在を語るということで、その直接性こそが詩を形作るかのように考えられることが多い。だが、隔たらないという直接性よりも、隔たっているという距離の方がむしろ詩を作るのかもしれない。池井の本作は、まさに距離こそが詩を作っている良い例だと思う。

 池井はこの作品で自らの古い体験を語る。いくら自らの体験と言っても、一定程度過去になればそれは体験ではなく物語だ。そこには多分にフィクションや幻想が入り混じってくる。そのフィクションや幻想や粉飾こそが詩を作るのである。

 直接的に書いたのでは出てこないような新たな認識や新たな展開が、距離を持つことで生まれる。それが詩を作り出すことをこの作品は証明している。