芸術作品が他の芸術作品や他の芸術家に言及している場合、それをどのように考えるかは難しい問題だ。本作でもカフカの作品やカフカ自身などについて言及がなされ、先行する芸術作品を参照する形で作品が成立している。そこにはある意味での再帰性があり、つまり、アートの領域からアートの領域を指示する再帰性があり、ある意味での閉じた感覚がある。だが、それは同時に先行する芸術作品の豊饒な広がりを利用して作品の広がりを作り出す効果もあるわけで、好ましい面もある。
このような再帰性は、別の意味では再生産であり、作品に触発されて別の作品が作られていくという幸福な作品間連鎖でもあるだろう。とはいえ、本作は再帰性の問題だけで語り尽くせるものでなく、そこでの先行する作品に心酔しているとか先行する作品に感動したとかというピュアな心情があるわけで、そこから動いていく作者の心情を読んでいくのも面白い。