albatros blog

広田修の書評とエッセイ

藤井貞和『よく聞きなさい、すぐにここを出るのです。』(思潮社)

 学殖詩人である。広く深い教養に基づいて書かれた詩群なので、私などが思いつきもしないような仕掛けが隠されているようで、読んでいてとても豊かな気持ちになる。教養の豊かさは詩の豊かさにつながると思う。それと同時に、教養の深さは詩の底知れなさにつながる。

 本詩集は社会的な事象について婉曲的に言及しているが、社会的な事象について詩を書く際の一つの方法として参考になる。社会的な事象を直接明示しなくとも、社会について詩は書けるのである。

 とにかく、ここには広く深く豊かな教養の世界が広がっている。読んでいるこちらの心も豊かになるそんな詩集だと思う。学殖詩人の作品にはそのような効用がある。