詩が世界の薄層を正確にとらえるものだとするならば、岩木の作品はまさに世界の薄い膜を繊細な手つきで取り出してくる稀有な作品だ。風景があり、それを見る主体がいる。だが、風景の奥深い構造とか主体の複雑な内面はそこには描かれない。岩木の詩に描かれるのは、まさに風景と主体が擦過して発火する、その限りなく繊細な薄層なのだ。
瞬間や薄層といった、けなげなもの、小さいもの、それでありながら限りなく尊く私たちの情緒を刺激するもの。そういったものの切り出し方が非常に巧みな詩集だと思った。人が何かを感受する瞬間、まさにその刹那に発火するものを見事にとらえている。
伝統的な詩法と言えばそうだが、伝統的でありながらそれを洗練させていってこの完成度が出来上がっているのだ。