albatros blog

広田修の書評とエッセイ

宇佐見りん『くるまの娘』

 

 「家族」というひとつの地獄について書かれた小説。DV、モラハラ共依存、病気などについて書かれている。ここに描かれた家族は父親による暴力がひどく、それによって主人公などが病んでいるから地獄の度合いが強い。だが、多かれ少なかれ家族というものは決してきれいごとでは済まない地獄の様相を呈しているものである。そこでは人間の秘密や弱い部分、生存の基本となる部分がお互いに共有されており、そこにおける依存と傷つけあいはかなりドロドロしている。だが、だからこそ家族は天国でもあるのだ。自分がくつろげる場所、自分の弱い部分をさらけ出せる場所、気を許せる場所。

 この家族の天国であると同時に地獄であるという両義性を気づかせてくれるのがこの小説である。暴力をふるってくる父親に対し、それでも依存をやめられない主人公。愛憎が最も濃い共同体において、そこに中毒しどんどん病んでいく。家族というものの本質に迫っている鋭い作品だと思う。