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広田修の書評とエッセイ

タナハシ・コーツ『世界と僕のあいだに』

 

世界と僕のあいだに

世界と僕のあいだに

 

  黒人である著者が息子にあてた手紙の形式をとっている。内容としては著者の半生についての自分語りである。著者がストリートなどの劣悪な環境の中でいかに生き延びたか、学校生活がいかに抑圧的であったか、大学は「メッカ」であったこと、白人による黒人への暴力、いかにも正義を掲げているようで黒人を差別するアメリカの「ドリーマー」たちへの批判、などなど、黒人のリアルを突き付けてくる。マルコムxへの信奉がありながら黒人を美化することに懐疑的であることなど、黒人の複雑な心境が語られる。

 アメリカの人種問題は根深い。最近は映画でも黒人俳優などが普通に出演しているし、オバマといった黒人大統領が誕生したりしているが、依然黒人の生活は厳しいことがひしひしと伝わってくる。その現実をわが子へしっかりと伝えて生きていく覚悟を持たせること。これは黒人の父親であればだれもが抱く決意なのかもしれない。なお、本書は全米図書賞を受賞している。