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広田修の書評とエッセイ

ナサニエル・ウェスト『孤独な娘』

 

孤独な娘 (岩波文庫)

孤独な娘 (岩波文庫)

 

  本作は、新聞のお悩み相談欄を担当する「孤独な娘」が実は本人も悩みを抱えていた、という物語である。新聞には毎日のように病気や人間関係などに起因するお悩み事が寄せられる。そのような惨状に心を滅入らせながら、いつしか「孤独な娘」(男性)も都市生活に嫌気がさすようになり、神経衰弱・うつ病の病状を呈するようになる。「孤独な娘」は悩み事に対してキリストへの信仰を説くことで解決を図ろうとしていたが、当の本人の悩みはそんな信仰では一向に解決しない。彼は田舎に隠遁したりするが病気は一向に治らない。

 ここには、「プラセボの限界」のようなものが見て取れる。信仰により病が治癒したり悩みが消えたりとかそういうのは一種のプラセボ効果だ。だが、プラセボ効果だけですべての病が治るわけではない。適切で科学的な投薬などが必要なわけだ。この信仰がもはや力及ばなくなり科学に頼らざるを得ない時代、まさに近代の到来というわけだ。