albatros blog

広田修の書評とエッセイ

クレメンス・マイヤー『夜と灯りと』

 

  マイヤーのこの短編集は、非常に素材感に満ちている。統一後の東ドイツ社会の断片を少しも誇張も修飾もすることなくなた包丁で切り落として我々の目の前に突き出してくる。哀愁と諧謔に満ちた社会の底辺の物語だが、マイヤーの手つきは極めて冷徹そのものだ。

 このノンフィクションやルポルタージュに似た書き方は、それでありながら文学作品としての統一感を、フィクションとしての質感を絶妙に残していて、その辺にマイヤーの卓越した技量を感じる。ここでは社会問題が告発されているのではない。あくまで社会を題材としたエンターテインメント作品が提示されているのだ。この線引きを間違わないところがマイヤーの小説家としての手際の良さであろう。