albatros blog

広田修の書評とエッセイ

タブッキ『逆さまゲーム』

 

  タブッキの小説は、基本的に読者に自らを投げかけてくるものが多い。タブッキはみずからの小説の解釈を固定させず、読者の解釈に大幅にゆだねてくる。特にこの『逆さまゲーム』においてはその傾向が顕著であり、一つ一つの短編がそれぞれに寓意や仕掛けを持っている。タブッキの意図する解釈もあるのだろうが、それよりももっとずっしりと重いものが手渡されてくるように感じる。

 表面的にとらえるのではなく「逆さま」にとらえる必要のあるこの作品集は、それゆえ「解釈ゲーム」でもある。いわばタブッキはゲームのフィールドを小説という形式で展開し、そこで読者は様々に解釈を楽しむのである。常にタブッキが先手を打ち続けるゲームにどこまでついていけるか。そんな持久力が試されているフィールドだ。