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広田修の書評とエッセイ

ヨシフ・ブロツキー『ヴェネツィア・水の迷宮の夢』

 

ヴェネツィア 水の迷宮の夢

ヴェネツィア 水の迷宮の夢

 

  本作品でブロツキーは、ヴェネツィアを訪れたときの心象を美しい詩文に仕上げている。ここにはいかなるストーリーもなく、ただ日記的な断章が続いていくだけだ。書かれる内容は難解であり、その難解さは彼の微細な感受性と物事を新たな視角から鋭く記述する批評精神に由来する。

 この作品は詩にとっていかに批評が重要かを物語っている。ごく当たり前に過ごす生活やごく当たり前に目にする風景であっても、その細部を穿ったり別の見方から見ることによって、つまり「批評」を施すことで目の覚めるような新鮮な文章となるのである。そして、詩のように美しい文体を必要とするジャンルにおいてはこの「批評」という働きが極めて重要なのである。本作品において、ブロツキーはヴェネツィアを、そして自身を批評しているのだ。そしてその批評が非常に巧みだからこそこのように美しい詩文を作り上げることに成功しているのである。