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広田修の書評とエッセイ

アントニオ・タブッキ『遠い水平線』

 

遠い水平線 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

遠い水平線 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 

  本書において主人公の死体解剖人は身元不明の他殺死体の身元が異様に気になってしまい、その身元を調べるべく探索の旅に出かけてしまう。行き先ごとにヒントがあるようでもありないようでもあり、真相はいつまでたっても明かされない。それは、どこまでも前に進んでも水平線は以前かなたにあり、決して空と海が分かれることはないこと「遠い水平線」により比喩的に示唆される。

 この本は哲学的ではなく日常的なテイストの世界の無限性を示唆しているように思える。世界の探索には終わりがなく、どこまで進んでも結局真相が明らかになることはない。それは死体の指輪に書かれた名前を手掛かりに始められた本小説の探索によって徐々に説得力を増していく。より身近な次元で、より生活の次元で世界は無限で終わりがないのである。それを一つの小説をもってして指し示すところにタブッキの本領発揮があるのだろう。