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広田修の書評とエッセイ

アナトール・フランス『舞姫タイス』

 

舞姫タイス (白水Uブックス―海外小説の誘惑 (145))

舞姫タイス (白水Uブックス―海外小説の誘惑 (145))

 

  苦行を重ね奇跡を起こす修道士が肉欲におぼれている非常に美しい舞姫を信仰の道に連れ込むが、最終的に修道士は自分が舞姫を性的に愛していたことを悟る、というストーリー。初めの方は、とにかく修道士のまっすぐな信仰心でもってストーリーが直線的に進んでいく。ところが、舞姫修道院に入ってから修道士のところには悪魔が訪れ、舞姫の死に際して修道士はみずからの堕落を悟る。物語は急展開をしていくのだ。

 この小説は宗教イデオロギーの違う人によって全く異なる読み方をされるだろう。キリスト教を教条的に理解する人にとって、修道士は結局堕落したという結論になる。性愛を認める立場の人にとって、修道士は人間の真実の姿に気づいたという結論になる。宗教イデオロギーの違いによって読みが異なってくる、評価が異なってくるという意味で、極めて政治的な小説だといえる。