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広田修の書評とエッセイ

ボフミル・フラバル『厳重に監視された列車』

 

厳重に監視された列車 (フラバル・コレクション)

厳重に監視された列車 (フラバル・コレクション)

 

  ナチス支配下チェコスロヴァキア鉄道員をしている若者を主人公として据えた作品。著者自身の人生でおそらくもっとも密度の高い時期を小説化したものであり、それゆえ本小説も多様なモチーフにより密度高く彩られていて、読みごたえがある。自殺未遂事件、鉄道員としての仕事、自らの生い立ち、戦争、性的な出来事、軽妙な文体でありながら多くのことが詰め込まれている。

 この小説では、現実は小説より奇なり、と似た事態が生じていると思われる。現実は小説よりも密度が高い。生きられた現実の密度の高さをそのまま小説に持ち込むと、通常よりも密度の高い小説が出来上がる。血肉化した現実の記憶を小説化した場合の作品の密度の高さは、現実の密度の高さにより説明されるだろう。現実は小説よりも多彩なモチーフで構成された多面体なのだ。