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広田修の書評とエッセイ

ヘルタ・ミュラー『澱み』

 

ヘルタ・ミュラー短編集 澱み

ヘルタ・ミュラー短編集 澱み

 

  ノーベル文学賞作家のヘルタ・ミュラーの初期作品。短い断章形式のものが多く、すべてにおいていびつで不穏で不吉であり、加害と被害に彩られている。暴力的な比喩や描写、そこにおいて常に何か破壊されるものがある。ただ故郷の情景を描いている作品であっても、いたるところに暴力性が潜んでいてイメージをゆがませる。

 もちろん、ここには作者の迫害体験などが潜んでいるのだろう。迫害体験によって安定や平静、秩序が破壊された後には、このように暴力的にゆがんだイメージばかりが浮き立ってきた。何かを失った、何かを破壊されたという強力な被害体験が根底にあり、そこから加害的で被害的な文体が生み出されている。

 このような作品を特権視することはできない。だが、これはあくまで世界の現実の一部分を端的に反映していて、決して無視できない作品である。