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広田修の書評とエッセイ

上田岳弘『太陽・惑星』(新潮社)

 

太陽・惑星

太陽・惑星

 

  小説を測る尺度として、その小説がどれだけ統合されているかということを考えることができると思う。統合とは、作者がどれだけその作品について作為的・支配的になり、どれだけ明確な構造を作り上げているかによって判断される。この作品は、独特の理念によって世界観が明確に提示され、登場人物は駒のように自由自在に操られている。作品世界には厳然たる秩序があり、統合の度合いが高いといえる。

 また、この作品は作品世界が広く深い。作品の扱う国や分野などの領域が広い一方、それぞれの領域についての理論的な踏み込みが目立っている。これだけの広くて深い作品世界を強く統合していくということ。そこに精密に彫琢された芸術作品が出来上がるのである。この作品は純文学の典型的な作品といってもいいかもしれない。

 上田の作品はこれまでも何作か読んできたが、作品としての魅力の作り方が独特だと感じる。明確にインテリ向けの小説であり、それゆえ教養のある層の読者には受けるが、そうではない読者には難解だといって退けられる類の小説だ。評価は分かれるだろう。