albatros blog

広田修の書評とエッセイ

川口晴美『やわらかい檻』

 

やわらかい檻

やわらかい檻

  • 作者:川口 晴美
  • 出版社/メーカー: 書肆山田
  • 発売日: 2006/06
  • メディア: 単行本
 

  本詩集のタイトルである「やわらかい檻」というのは、まず第一には少女の身体そのものを指すだろう。少女を閉じ込め、それでありながら周囲の世界と溶け合っているやわらかい身体。川口はこのやわらかい身体について執拗なほどの描写を行っている。そして第二には、少女を囲む家庭という場所。家庭は少女を閉じ込めるが、その質感はとてもやわらかい。少女はこの狭い世界から出ることはできないが、その分狭い世界に守られている。

 文体としては明澄な散文詩だと思う。飛躍などを上手に織り込みながら、強度を持たせて描写を丁寧に行っている。文体からはとてもクールな大人の視線が見て取れる。大人となった川口の冷めた視線によって、それでも熱っぽく少女時代が描かれていく。あたかも川口は少女というものを分析したり研究したりするかのようなまなざしで、その細部を追求していく。読み応えのある詩集だった。

残業

 いつ、どのくらい残業するかは悩みどころです。私は以前の職場では朝6時に出勤して朝残業していたのですが、結婚してから妻のペースに合わせているので出勤は朝7時半ごろになっています。そうするとどうしても夜残業する必要が出てくる。ところが、周知のとおり夜の残業は効率が悪いし、次の日の効率も下げます。だからなるべく普通の日はやりたくない。それで、やるとしたら休みの前日がいいという結論に至りました。普通だったら金曜日で、週の間に休日があるならその前日。休みの前日であれば翌日に響いても問題がないですよね。せっかく残業しても次の日の効率が下がるようでは何だか無駄ですからね。

小海永二『夢の岸辺』

 

詩集 夢の岸辺

詩集 夢の岸辺

 

  小海はこの詩集でとりたてた修辞を使っていない。小海は老いの嘆きをまことに真率に、韜晦することなく歌っている。これだけ露骨に嘆かれると何か人間の業であるとか、浅さ深さ両方深めた人間そのものの肖像が見えてくる。かといって決してありきたりな表現になっているわけではなく、そこには小海の思考の強度が反映されている。

 老いの嘆きのほかにも、これまでの辛い人生を振り返ったり現代社会を批判したり、ここには気どりも修飾も何もない人間そのものが表現されている。このように素の自分をどこまでも露骨に出していくことが小海の修辞だったのかもしれない。修辞を使わないという修辞を小海は意図的に使っているのだと思われる。

 それにしても迫力のある詩集だった。心の底から沸き起こってくる叫びを記しているので、鬼気迫るものを感じた。

ハードな一週間

 今週は結構ハードな一週間です。出張が三つはいっています。昨日は早朝から研修のスタッフ兼受講者として勤めてきました。今日は税務署への調査に行き、木曜日は法務局への調査に行きます。

 昨晩は妻が福島に用があり不在だったので、昨晩と今朝と一人でご飯を食べています。男一人の料理はやはりあまりよくないですね。最近納豆一パックにネギをたくさん入れてご飯を多めによそってあとは味噌汁だけという食事にはまっていますね。

 昨日の研修は得るものがかなり多くあり、受講させていただいてありがたかったです。なかなか専門的な仕事をしているので、こういう機会は本当にありがたい。

 体調管理をしっかりやっていこうと思います。

ジョセフ・オニール『ネザーランド』

 

ネザーランド

ネザーランド

 

  本小説は土地をめぐる小説である。9.11後、妻が住むことを拒んだニューヨーク、そして妻が息子を連れて帰ったロンドン、主人公の回想に現れるオランダ、それぞれの土地がそれぞれの意味合いをしっかり持って立ち現れている。ニューヨークはテロの危険がある一方、主人公の仕事場があり、またクリケットができる。ロンドンでは家族に会うことができる。オランダは美しい思い出の場所だ。それぞれの土地がそれぞれの情緒的な意味合いを持ち、主人公の心を動かしていく。

 9.11の恐怖により、主人公の妻は別居を選んだ。9.11とその後のイラク戦争は家庭内のイデオロギー闘争を巻き起こし、家庭を崩壊させた。政治的な価値観が家庭を引き裂くということに恐怖に近いものを抱く。いかにうまくやっている夫婦であっても、政治や宗教のイデオロギーでは引き裂かれうる。その事実が端的に恐怖を催す。この小説は、家庭的な喪失からの再生を描いているが、それにしてもこのように文学化されると、9.11のアメリカ社会への衝撃の大きさに改めて気づかされざるを得ない。日本の3.11と似たところがある。

干刈あがた『ウホッホ探検隊』

 

ウホッホ探険隊 (河出文庫)

ウホッホ探険隊 (河出文庫)

 

  80年代当時に発表された小説だが、そのころはまだ離婚が珍しかった。その時世にあえて離婚の問題を正面から取り上げること。この小説はさまざまな行為をなしているように思う。

 この小説では離婚の深刻な面も描かれる。と同時に、子持ちのシングルマザーのユーモラスな日常も描かれる。このようにして、離婚の現状はこういうものなのだ、と社会へと投げかける行為をこの小説は行っている。それは、離婚というものを正当化する行為かもしれないし、離婚の問題を提起する行為かもしれないし、離婚の現実を広く周知する行為かもしれない。

 小説が明確に行為をなしている例は珍しいと思う。もちろんあらゆる小説は何らかの行為をなしているわけであるが、この小説のように行為性が際立っているのは面白い。だが、小説とは耽美的世界に漂うものではなく、このように社会の中で行為するところに神髄があるのかもしれない。

オニール『喪服の似合うエレクトラ』

 

喪服の似合うエレクトラ (岩波文庫)

喪服の似合うエレクトラ (岩波文庫)

 

  この作品では、不倫の愛や近親者の愛憎だけでなく、殺害や自殺など死がたくさん現れる。古典ギリシア悲劇に材をとっているだけあってそのような構成となっているのだろうが、それにしても愛憎に死と劇的な要素満載で満腹感を得てしまう。だが、もちろん本作品は強度の強いモチーフを多用することにより安易に劇を作り出そうとするものではない。そこには微細な心理描写やト書きの充実など、綿密な造りこみがなされていて、そこにこそノーベル賞作家の手腕が認められる。

 本作品では近親者の死がテーマになっている。屋敷の娘は結局結婚できなかったのだが、それは近親者がたくさん死んだという世間体よりも、近親者の死による喪失感や傷が原因だったと思われる。近親者が多数死ぬ筋書きを用意しながら、その意味を問い詰めていくことがオニールの目的だったのだと思うし、そこにこそギリシア古典悲劇を現代によみがえらせる意味があると思う。